2015年6月12日金曜日

フランスでスタージュ -

こんにちは、リヨンの国立図書館情報学高等学院に留学中の萩原です。

今日は、フランスでのスタージュについて投稿します。スタージュの基本情報、見つけ方、なぜスタージュがおすすめなのかを私なりに書いてみました。



まずは簡単に自分のことから。

現在、Enssibという学校で図書館・ドキュメンテーション政策修士課程の1年目に在籍しています。このプログラムでは、修士1年目に3週間のスタージュ(これは希望者のみ)、2年目は3ヶ月以上のスタージュが必須になります。私は2015年の2月に3週間のスタージュを大学図書館で、そしてこの夏休みに同じく3週間のスタージュを今度は市立図書館でする予定です。スタージュ終了後は簡単なレポートを学校に提出する必要があります。これはこの短期スタージュが必須ではないため、それを正式に認めてもらうための必要な手続きだそうです。修士2年目の必須のスタージュは、事前に取り交わした研修内容について分析レポートが課せられています。


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(Photo SH, CC BY-NC)

























ここからは、スタージュについて。
まず、フランスでスタージュをするのには、どこかの教育機関に所属している必要があります。なぜなら、スタージュをするのにはConvention de stageという協定書を交わす必要があるからです。これは、学生、所属教育機関、研修先の3者で交わし、そこには期間、研修内容、報酬、保険などについて記載がされます。また、スタージュの分野は、自分の専攻と関連している分野になります。報酬については、スタージュ期間が2ヶ月を越えると報酬が発生します。2ヶ月以内のスタージュの報酬は任意となっていて、大半は無報酬です。

さて、そのスタージュ。どうやって見つけるのか?

ほとんどの場合、募集に対して応募するというよりは、自分から自発的に応募することの方が多いようです。大学などの教育機関に所属していれば、学内にスタージュを担当している部署があると思うので、そこで募集情報を見たり、アドバイスを受けたりすることができると思います。また、専攻コースの担当教員に話をして、どこか紹介してもらうこともできると思います。私の場合は、図書館の希望するセクションの担当者に直接コンタクトをとりました。図書館によっては、スタージュ希望者はこのアドレスに連絡をというように、連絡先が指定されている場合もありました。一般企業でも、やはり希望する企業のホームページから連絡先を探すことになると思います。あとは、 このようなデータベース(http://fr.kompass.com/)を使って興味のある分野の企業探しもできます。



次は、希望するスタージュ先を見つけた!さて、どうやってコンタクトをとるのか?

それは、やはりメールです。必ずしもこの方法がベストというではありませんが、私はメールで最初のコンタクトをとりました。メールには履歴書を添付して、モチベーションレターは添付せず、メールの本文内にモチベーションレターを簡略したようなものを書きました。この方法は、学校のスタージュ担当の事務の方にアドバイスをいただきました。



そして、返事を待ちます。

返事はすぐ返ってくることもあれば、なかなか返事が来ず、頃合いを見計らってもう1度メールしてみたりといろいろなようです。メールのやりとりでスタージュが決まる場合と面接がある場合とがあります。私は短期のスタージュを2件応募しましたが、1つ目はメールのやりとりで決定、2つ目は面接をし、その後正式に決定という流れでした。面接では、この図書館でどんなことがやりたいのか、モチベーションレターの内容、1つ目のスタージュでは何をしたのか、スタージュ先からの提示された業務についてなどでした。あとは、少し専門的な知識について問われましたが、わからないことは、はっきりとわからないと伝えるとその場で簡単にレクチャーしてくれました。3週間という短期のスタージュで本格的な面接があるというのはちょっと珍しいパターンだったようです。簡単な場合だと電話面接などもあるようです。スタージュ先が決定してからは、期間やスタージュ中の取組み内容などについて担当者と確認します。学校からある程度内容について指示があれば、その指示内容と、自分の希望があればその希望と、あとは研修を指導してくださる方が応募者のプロフィールを踏まえた上で、スタージュ中の業務を決定します。



最後は、決定事項を学校に伝え(私の場合は、修士のコース責任者とスタージュ担当の事務の方)、convention de stageを作成してもらいます。



スタージュ期間については、フランスでは2ヶ月以上のスタージュは有償になるので、2ヶ月以内のスタージュの方が決まりやすい傾向はあるらしいです。実際には留学先のプログラムによりけりで、授業のない期間ということに限られてしまうと思いますが…。また、夏休みでもスタージュは可能だそうです。 ただし、バカンスシーズンは、研修指導をしてくださる方が夏休みをとっている可能性も高くなるので、コンタクトは早めにとる方が良いそうです。



私がスタージュをしてよかったなと感じたのは2つ理由があります。

まず、1つ目は、専門分野について実践的なことを学ぶ機会を得られたことです。私の学校の授業はどうしても理論的なことになりがちです。研修中は実際の現場を見て、経験して学ぶ機会を得られたことが本当に大きく、またスタージュ後に授業が再開したときは、理解がしやすくなるなどの効果がありました。2つ目は、スタージュのおかげでいろいろな人との繋がりができたことです。セミナーの案内を教えていただいたり、学校の課題を仕上げるためのインタビューに協力していただいたり、普通に仲良くなり、遊びにでかけたりと、スタージュの間に築いたつながりのありがたさを感じています。



フランスでの留学中にバカンスがあれば、もちろん旅行に行くのも良し、研究や勉強を続けるのも良し、友達と遊ぶのも、家でのんびり過ごすのも良し、長期留学であれば、一時帰国される場合もあると思います。けど、このスタージュもとっても魅力的なバカンスの過ごし方だと思います。最初にも書きましたが、Stage conventionnéをするのにはどこかの教育機関に所属している必要があるので、それも含めて、この留学中にピッタリな機会かなと思います。これから留学される方で、もしスタージュに興味があれば、留学先の大学などの担当部署に問い合わせすることをおすすめします。

2015年6月8日月曜日

パリのアカデミックな世界への近道「研究発表会」

はじめまして、ソルボンヌ大学(パリ第 4 大学)博士課程の川﨑瑞穂です。今回は、フランス(特にパリ)の「研究発表会」に参加することのメリットについてご紹介したいと思います。

フランスのアカデミックな世界に触れるもっとも簡単な方法、それは学会・シンポジウム等の「研究発表会」に参加することではないでしょうか。フランス、特にパリでは、毎日といってもよいほど多くのシンポジウムや学会の研究発表会が開催されております。会場は様々で、大学はもちろんのこと、美術館や博物館等でも行われることがあります。私は 2014 年 9 月からこの文章を執筆している 2015 年 6 月までの間に、文化人類学や哲学、そして私の専攻である民族音楽学など、様々な分野の研究発表会に参加(計 12 回)し、内1 つでは自らも研究発表を行いました。



私の所属しているソルボンヌ大学(パリ第 4 大学)でも、多くの分野の研究発表会が開催されております。(以下写真は全て執筆者撮影)


研究発表会に参加することの最も大きな魅力は、第一線の研究者による最新の研究を知ることができる、ということでしょう。もっとも、それらのほとんどはフランス語であるため、それ相応のリスニング力は必要です。しかし研究発表会では、最新の研究に、耳だけでなく、目でも触れることができます。フランスでは、日本の研究発表のようにレジュメを用いる習慣はあまりないようですが、最近ではどの分野の発表でもパワーポイントを使用しているため、情報量はより豊富です。読解力にかなりの自信がある人でも、フランス語の文献を、限られた留学の時間で多読するのは非常に難しいことです。耳と目を使って、最新の研究に数時間で触れることができるのは、なかなか「おトク」なのではないかと思います。

また、多くの研究発表会は入場無料です。ほとんどが、事前予約の必要がありませんし、もし必要な場合でも、大学等の所属があればメールで簡単に登録することができます。そして、会の途中ではしばしば「ポーズ・カフェ La pause-café(コーヒーブレイク)」があり、お菓子が出ることもあります。お菓子を食べ、コーヒーを飲みながら、多くの研究者と交流することも、また貴重な体験であるといえるでしょう。

 「ポーズ・カフェ La pause-café」の様子。(写真はコレージュ・ド・フランスで開催された考古学のシンポジウム“L’argent des dieux” 2014 年 10 月 16日)


そして、議論好きなフランス人の白熱する論戦を聴くことはまた、彼らがどのような部分に問題意識を持っているのかについて知るよい機会です。私は日本の民俗芸能を研究しているため、日本学系のシンポジウムによく出席しましたが、その中ではしばしば、日本人では問題にしないようなことについて長々と議論をする場面に遭遇しました。それは、われわれが日常で「括弧」に入れてしまっていることに気付く機会でもあるといえましょう。

そして、これは最初の利点とも重なりますが、第一線の研究者に実際に会うことができる、という利点があります。おそらく、ほとんどの留学生が何がしかの専門分野を持って渡仏することと思いますが、研究発表会では、その筋の第一線の研究者の、しかも最新の研究を聴くことができるだけでなく、うまくいけば話をすることができます。私の留学での一番の思い出は、あるシンポジウムで、20 世紀フランス思想の生き証人である、フランスの哲学者ジュリア・クリステヴァ(パリ第 7 大学名誉教授)に会い、お話しをすることができたということです(シンポジウム «“L’étranger” Étranger, qui es-tu? Étrager, qui suis-je? » 2014 年 10 月 1 日)。シンポジウム終了後、緊張しながらも、私は恐る恐る帰り際のクリステヴァ先生に話しかけてみました。名刺を渡し、たどたどしいフランス語で自分の研究や、先生の本をよく読んでいることなどを話すと、先生は優しく「来年の私の講義にいらっしゃい」とおっしゃられました。シンポジウムでのお話のときには非常に厳格な雰囲気でしたが、直接話してみると、大変優しい方でした。歴史上の人物であり、もっとも尊敬する学者のひとりである方と話すことができたことは、私にとって大変貴重な思い出です。留学前、この目標だけは叶わないだろうと薄々思っておりましたが、少しでもアンテナをはって注意しておくと、意外とチャンスは転がり込むものなのだとつくづく実感しました。憧れの学者が目の前で生き生きと話すのを見ることができるのは、留学ならではの経験であるといえるでしょう。
フランスの「知の殿堂」、コレージュ・ド・フランス。

        

また、「自由に聴くことができる」という点では、「コレージュ・ド・フランス Collège de France」の講義は大変有意義なものであるといえます。フランスの知の殿堂として名高いコレージュ・ド・フランスも、先生との距離は実に近く、ある日、仏教学者のジャン=ノエル・ロベール教授の講義に出席し、終了後に話しかけたところ、別の日に開講されている「和歌」と「漢文」に関するセミネールを聴講させてもらえることになりました。まさに「シチュブ(よかったら)Si tu veux」で繋がる世界です。特にパリは狭いですから、「シチュブ」を数珠つなぎのようにしてどこまでも繋がっていくことができるのが、パリの研究発表会に出席する魅力であるといえるでしょう。

私が研究しているフランスの文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロースの名を冠したシンポジウム会場。(コレージュ・ド・フランス)

そして、私の場合は幸運にも、フランスでの指導教員の所属する学会で、自分も研究発表をすることができました。フランス語での質疑応答が心配でしたが、どちらかというと質問の内容の方が難しかったように思います。日本の学会発表では聞かれないようなことを聞かれたので、なかなか答えるのが難しかったです。徹夜で作った想定問答は何の役にも立ちませんでした。しかし、それゆえに、自分がどのあたりを「当たり前」だと思ってしまっていたのかも、分かったような気がします。フランスの研究者や学生の発表を聞き、また自らも発表することで、自身の研究を大きく発展させることができたと思っております。

 私の研究発表の様子。(“Journées DoctoralesMusique et Musicologie” IReMus、ソルボンヌ大学、2015 年 3 月 28 日)

このように、私は今回の留学で多くの研究発表会に参加しましたが、そこで日本人に会うことはほとんどありませんでした。もっともそれは分野によっても違うでしょうが、このような魅力あふれる交流の機会を逃すのは、非常にもったいないことです。研究発表会は大学の掲示板などに張り出されているポスターで見つけることができますが、それだけではなく、インターネットで好きなキーワードを入れて検索すれば、研究発表会のサイトをたくさん見つけることができます。私は研究発表会に多く参加することで、有意義な留学生活を送ることができました。これから留学される方も、現在留学されている方も、ぜひ、ためらわずに研究発表会にどんどん参加していっていただけたらと思います。



ソルボンヌ大学(パリ第 4 大学)博士課程

川﨑 瑞穂